詩の朗読「灘岡父さん殺処分係の数奇な一日」竹下力 by 竹下力 published on 2023-02-19T12:59:48Z もうこれ以上どこにも行けないから どこにも行かない決心をしたのに どこかにたどり着いてしまった寂しさは いくぶんいい慣れた言い訳をしながら 朝の雷鳴が始業の合図となって灘岡団地からトボトボと歩くだけで 罵声を浴びながら町のみんなが責め立てることに苛立ちもなく 僕を処刑場のある炭鉱のトロッコの奥に運んでくれる あまりの辛さに幽霊になった奴もいるけれど 父さんは母さんをレイプするシーンを見ていた訳だし 僕のクソみたいなルサンチマンは勃起的な殺人を肯定したいから 父さんを殺処分する灘岡町役場の仕事だと自意識過剰になりたくて 僕は特別になろうとした、君みたいになろうとしたけど 貴賤の咎めがひどくて僕は泣けないのに泣いたフリをしながら 被害者ヅラをしながら母さんをレイプするたびに 父さん、父さんと喘ぎ声をあげる バセドウ病の母さんの柘榴の赤い潤んだ目が愛しいから 僕はケツの穴を父さんに舐めさせられたあの日を思い出しながら 灘岡炭鉱の奥で農薬を飲ませた父さんの皮を剥いで 目をくり抜いて舌を引き抜いて肉を引き裂いて 灘岡湖の塩水で骸骨を洗い流して 何度も父さんを殺すたびに これ以上はもう無理だなんて嘆いても 母さんの柘榴の涙が愛おしいから その裸体も稲妻みたいな味のするバセドウ病も 僕は罪を積み重ねていくしかない痛みだけが身体中を突き刺して 灘岡湖の汚水に汚れた膨れた鯉達の鱗を昼食代わりにするだけで 汚染された心も暗黒の魂も 辿り着く場所は断末魔が焼き付けられた影になった処刑人の僕だけど どこにも行き場所がない魂は笑うことだけを許してくれて 父さんが母さんの柘榴の目に濃硫酸をかけた時の笑顔の僕 僕が殺意を胸に抱いた瞬間の僕 父さんの脂ぎった首を鉈でちょんぎった時に生まれ変わった僕 レールの奥の炭鉱のダイナマイト置き場に積み重ねていた 無数の父さんの骸骨がイン・マイ・ナッシングと歌うたびに 僕はその合唱の指揮者となって 灘岡に終業の合図を知らせる みんなに 遠くへ 逃げてほしいのは 僕が汚れ切っているだけで 父さんじゃなくて母さんだとしても 灘岡山から降りてくる時には雪が降って 僕の吐く息が氷を形作る前に 僕の両手は父さんの血で柘榴のようになってしまった愉悦を 町の人たちの貴賤の咎めが暴き立てる僕の真実が 嘘に変えてしまった時には 母さんを愛しているだけなんだと呟いたとしても 僕は自殺以外の何者でもない母さんの裸体に 電極を差し込んで打ちひしがれるバセドウ病の母さんが震えるたびに メチルアルコールでできた二級酒の瓶を持ちながら 灘岡団地305号室のダッチワイフのように寝ている母さんを見つめ 母さんの濃硫酸で爛れた柘榴の眼球に想いを巡らせながら 母さんが父さんと叫んでオナニー発作の前に 僕は自らの死刑に従順でありたいと唸りづつけるんだ。 Genre Dance & EDM