詩の朗読「柘榴を食べた母さんを死刑にした瞬間に……死刑執行官の僕が君を愛している間に僕の前から消え失せてくれ」竹下力 by 竹下力 published on 2023-02-07T06:56:54Z 僕は黒い死刑になって僕を虐殺して殺したい。僕には何もない。 僕は死刑が死刑であることが好きだ。死刑は虐殺でない虐殺だから。 虐殺の死刑が死刑でない灘岡湖の潮風だってことを愛している。 なぜなら死刑でしかないことが死刑であることを死刑でないことをする死刑は死刑以上の死刑……僕の前から消え失せてくれ。永遠に。 僕が君を愛している間に……。 ああ、愛している。たまらなく死刑を愛しているから愛されないとペニスに自傷していたことは内緒だよ。 壊れてしまうものが壊れてしまうようにただずっと壊れていくからだ。 幽霊は幽霊であり続けながら地面を踏みしめて足音を立て消えて行く。 稲妻が彗星に落ちたからといって核爆発が起こらないのと同じように。 僕を助けないでもいいから、僕の前から消えてくれ。すごく永遠にね。 泣きたいから泣いている訳じゃなくて、泣いているから泣きたいんだ。 笑いたいから笑っている訳じゃなくて、笑っているから笑いたいんだ。 そうじゃない感情もいっぱいあったし、なんとかしようとしてもがいていたのに、僕は自分の人生を無駄にしているだけ。 明滅する冥王星がゲロを吐いているみたいじゃないか。 僕はゲロまみれになりたい。ゲロを吐く前に首を絞めて欲しかった。 灘岡湖拘置所の中は摂氏1度で外には珍しく雪が降り僕の息が白くなった。僕は小さな窓を覗きながら雪がちらつくのを見ていた。 父さんと花井花子の幽霊の足跡が雪を踏み締める。 父さん花井花子……さよなら。 母さんを見に来たの? 母さんは性的な金属音でビヨンセを歌う猿のような俗物になってしまった。 死刑の時刻を告げた時、死刑囚の母さんは最後に柘榴を食べたいと笑った。「あなたも……好きだったんでしょう?」 父さんが好きだったからとも言った。 だけどそんな父さんと浮気相手の花井花子に農薬を飲ませて殺して、ノコギリで死体をちょんぎってグチャグチャにした。 母さんは柘榴を味わいながら性的な酸味に犯されたいと父さんに抱かれていたからなの? 母さん! 僕は母さんにそう言えなかった。母さんを愛していたから。父さんも。元・恋人の花井花子も。 分かっていた。苦しむことも。消えてしまわないことも。父さんが殺されて嬉しかったことも。僕の光沢めいた工業機械が黒い油ぎった殺意も。 父さん! ああ、愛していた! 花井花子! 独居の中には柘榴の酸味が満ちている。 母さんの口元から赤い汁が垂れている。 「愛していたの……愛していたの……」なんて泣きながら貪って。 僕はただじっと見つめていた。愛していたから。すべてがなくなってしまうことを知っていたから。だから消え失せて。僕の目の前から。 煌めきだった雪の中に稲妻が落ちて処刑場は首吊りロープを感電させた。 僕は母さんにアイマスクをかけてあげた。 「ありがとう」と母さんは言ったけど柘榴の口臭がしてエロティックだった。 死の匂いは生であることを。死んで! 早く死んで! アイマスクをつけたら目玉が飛び出ることも口から血を吐いて小便を垂らすことにもリアリティがないじゃないか! 僕をメチャクチャにして。僕にどうして農薬を飲ませなかったの? 母さんは僕の意図を知ったのか笑顔になって首吊りロープを首にかけて落ちていった。「ありがとう……あなたも殺してあげたかったわ」 その瞬間、バウンスする体と感電したロープがカッターになって首の動脈を切ってしまって、まるで柘榴のように。 まるで柘榴が核爆発したように弾け飛んで赤い汁が……血が血が違う! 涙のように血が滴ってくる。 愛おしさが壊れていく。悲しさが僕を満たしていく。血は冥王星の水爆実験のようにゲロだらけだった。 母さんは父さんや花井花子を殺してセイセイしたの? 刑務官たちが慌てふためく。 僕はただじっと見ている。じっと見つめている。 ああ、真っ赤な雪が降る空に向かって吠えたい。 母さんが闘犬場の餌場に父さんと花井花子のグチョグチョの死体を食わせたように。犬も死んだよ。だって農薬まみれだもん。 僕は救いがたくもうただ黙ったまま、壊れていく母さんを見つめているだけだった。 壊れてしまうものが壊れてしまうようにただずっと壊れていくように。 一刻も早く僕の前から消えてくれ。ずっと永遠に。 僕が君を愛している間に……。 Genre Pop